暗転?

2011年5月24日
東京医療大学学長・波越久雄の自宅は、世田谷の閑静な住宅街の一角にある。

和洋折衷建築のそれは、一代で大学を立ち上げた彼のエネルギーに相応しい、異様な外観を呈している。

特記すべきは彼の敬愛する豊臣秀吉の黄金の座像が門前に輝いているところだろうか。新城十和子は唖然として太閤像を何度も見直した。

「学長のセンスを考えれば、どんな家でもおかしくないとは思ってたけど・・」


新城は古河真衣に相談しなかったことに些か不安を感じながら、招待を断れず学長の自宅に来た。

まさか自分と学長の2人きりではないだろう。


明けない朝?

2010年9月1日
真衣の目前に、十数年は軽く時を重ねていそうな黄ばんだ書類ファイルの束が目に入った。「覚書」とだけ無愛想に書いた背表紙に違和感を覚える。

30歳かそこらの隼人が、こんな爺むさい言葉を用いるだろうか。真衣は思わずファイルを手に取り開きかかると、

「何してるんだ!」

大学の事務長であり、学長の波越久雄とは幼なじみである若田義一が、噛みつかんばかりの勢いで真衣を威嚇した。

第一章 明けない朝?

2010年7月16日
だが、隼人は自分たち女性職員に対して全く性的な興味は持っていない。父親である学長に似て高圧的なところがありはするものの、それだけは大分マシだと真衣は思った。

(私は学長好みの派手め美人でも、グラマーでもないから安心できる。でも、新城先生は・・)

真衣は少年のように存在感のある上向きの眉を顰めた。控えめな顔立ちの割に目が吊り気味で、眉と睫毛がやや濃いことが気の強さを感じさせる、と友人には言われる。

(顔立ちと言えば、隼人は今は痩せているせいか、お母様似だわ。でもいつかは巨体の学長に似てくるのかな)

と、嫌な妄想に耽っている真衣の視覚に、およそビジネス文書の類ではない字体の書類が入った。

第一章 明けない朝?

2009年10月4日
原田真衣は、学長の長男であり、副学長の波越隼人から言いつかった私室の掃除を腹立ちまぎれに乱暴に行っていた。
(あんの若僧、勘違いして!私は単なる会社員で、あんたの奥さんでもメイドでもないっつーの!!)

隼人はもうじき30歳で真衣よりは年上だが、入校時期はごく最近だ。
(それがいきなり副学長様々ですか。同族は苦労知らずで良いねえ)
真衣は苦々しい表情になった。

第一章 明けない朝?

2009年9月27日
古河真衣は十和子と同期入社の27歳で、マイペースな性格の持ち主である。

初めて真衣に会った時、おとなしい顔立ちに似合わず、落ち着き払って数百人もの職員の前で堂々と挨拶したのに十和子は一目置いた。

それ以来何となく、問題が起こるに付け、この日本猫みたいな顔の、背の小さい同僚を頼りにしてきた。

だが、真衣はその日出勤しては来なかった。

新城十和子は時ならぬ携帯の着信音で目覚めた。

(何、まだ朝の6時じゃない・・)

半ば眠りの淵にいる意識を無理やり画面に集中させる。

十和子の眉が顰められた。三件の着信があり、その全ての発信者は、彼女の勤務する大学の学長からのものだった。

十和子は女性らしい華やかな顔立ちであり、人からお世辞でなく美人と誉められることもよくあった。35歳と女盛りの魅力があり、更に20代に見られるような若さも残っていた。

先月、たまたま学長室に資料を届けた際、学長が興味ありげにこちらを見ていたのも、単に知らない顔の職員だからというだけではあるまい。だが・・

(古河さんに相談してみようか)

十和子は出勤して、同僚の古河真衣の姿を探した。

同族が牛耳る新設大学に勤め始めた、元OLが見た教育界の腐蝕・汚泥の底を赤裸々に書く・・予定です。

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